未払い残業代請求のカギを握る、証拠集めの3つのポイント

未払い残業代請求のカギを握る、証拠集めの3つのポイント

残業代を請求するためには、残業時間を裏付ける証拠が必要です。
そこで、具体的にどのような証拠があれば残業時間が証明できるのかについて説明するとともに、そのような証拠がない場合の対処方法についてお伝えします。

 

 

残業時間とは具体的に何を証明しなければならないのか

1日の残業
残業時間を裏付けるには、全ての出退勤の時刻の証拠が必要です。
1日の法定労働時間である8時間を超えると、残業代が発生します。残業代は、残業時間に割増賃金(22時までなら25%)を掛けて計算します。

 

そして、残業時間を計算するためには、「この日は9時に出勤して21時に退勤したから、残業時間は3時間だな。」というように、全ての日について分単位で出退勤の時刻を特定する必要があります。
残業時間を裏付ける証拠とは、これらの全ての時刻を裏付ける証拠のことを指します。

 

 

タイムカードやIDカードがあれば最良の証拠となります

タイムカードの記録
残業時間の最良の証拠はタイムカードやIDカード(勤務先が警備会社と契約している場合など)です。なぜなら、これらは出退勤や入退室を機械的に記録するものであって改ざんの恐れも低いことから、証拠としての信用力がきわめて高いからです。
したがって、タイムカードやIDカードによって出退勤が記録されている場合には、それに基づいて簡単に残業時間を把握することができます。
なお、トラック運転手の場合は、トラックに搭載されているタコメーターがきわめて信用性の高い証拠となります。

 

 

タイムカードやIDカードが記録したデータは雇用主から入手できます

タイムカードの記録を請求
タイムカードやIDカードが記録したデータを保管しているのは雇用主であって労働者ではありませんよね。まずは雇用主からこれらのデータを入手する必要があります。
この点で、雇用主は、労働契約に付随する義務として、労働者からタイムカードの開示を求められたときには開示しなければならない義務があるものとされています。また、雇用主があくまでタイムカードの開示を拒んだ場合には、裁判所による文書提出命令の対象になります。
したがって、タイムカードやIDカードが記録したデータが存在していれば、これらのデータを雇用主から入手することで残業時間の証拠とすることができます。

 

 

タイムカードを開示してもらえない場合はどうする?

タイムカードの記録を開示してもらえない場合
なお、タイムカードやIDカードは、出退勤や入退室の時間を機械的に記録するものであり、改ざんのおそれが少ないことから、一般に、証拠保全請求(あらかじめ証拠を確保しておかなければ証拠が失われてしまうおそれがあるときに認められる証拠確保手続のこと)は裁判所に認められません。
そのため、雇用主が裁判前の自主的な開示を拒否したときは、裁判前にタイムカードやIDカードのデータを入手することはできませんので、適当な推定計算に基づく残業代でとりあえず提訴し、その後、裁判所を通じてタイムカードやIDカードのデータの提出を求めたり、裁判所の文書提出命令を求めたりするなどして、雇用主からこれらのデータを入手し、正確な残業時間が判明した時点で請求額を変更することになります(これを「訴えの変更」といいます)。

 

 

勤務先にタイムカード設備がないときの次善の証拠

タイムカードがそもそも無い場合
勤務先にタイムカードやIDカードの設備がそもそも存在しないときは、それ以外の証拠によって残業時間を証明するしかありません。
具体的には、勤務割表(シフト表)、時刻の記載のある業務日報や出勤簿などの帳簿類、勤務先で送受信した電子メールの送受信記録、パソコンのログに記録されたログインとログアウトの時刻、Suicaの利用明細の時刻などです。
これらに記載された時刻から出退勤の時間を割り出して、全ての日の残業時間を証明していくことになります。
本人や家族のメモや日記などに出退勤の時刻が記載されているときも証拠にはなりますが、正確性に疑問があったり改ざんが容易であったりすることから、一般に、証拠としての信用力は低いものとされています。

 

 

タイムカード設備があるのに、勤務先がデータを開示しないとき

勤怠記録が削除されてしまった場合
勤務先にタイムカード設備があるのに、「データは既に破棄してしまった」という嘘をついて、勤務先からタイムカードのデータが開示されないことがあります。その場合は、タイムカード設備がないケースと同様の立証方法で残業時間を推定していくしかありません。とはいえ、タイムカードやIDカードのデータがある場合と比べると、これらの証拠には客観性や正確性に疑問があるものもありますので、一般的に、残業時間の立証に成功することが難しくなります。

 

 

労働時間の管理体制に不備がある場合、労働者が有利になることも

勤怠時間の管理体制に不備がある場合
そもそも、雇用主には労働時間を適切に管理すべき義務があり、タイムカードの保存期間は3年と法律で規定されています(労働基準法109条)。タイムカードを破棄すれば労働時間の適切な管理に重大な支障をきたすことは明らかであるのにあえて破棄をするわけですから、雇用主には、なぜ破棄をしたのかについて合理的な理由の説明が求められます。そして、雇用主が保存期間内のデータの破棄に関する合理的な理由の説明に失敗すれば、裁判所は、残業時間の証明妨害ではないかとの疑いを抱くことになります。
したがって、雇用主が法定の保存期間内にタイムカードのデータを破棄したときは、破棄に合理的理由のない限り、雇用主に対する一種の制裁として、タイムカード設備が存在しないケースでは残業時間の立証とは認められない程度の推定計算であったとしても、残業時間の立証がなされたものと認定される場合があります。

 

 

まとめ

残業代の請求には正確な出来勤データが重要
このように、残業代を請求するためには、正確な出退勤時刻のデータを入手することがとても重要です。
タイムカードやIDカードといった信用力の高い客観的なデータが入手できればそれに越したことはありません。しかし、これらのデータが入手できなくても、出退勤の時刻が記録された他の証拠を見つけ出すことができれば、出退勤の時刻を割り出し、残業時間を推定することができますので、あきらめないで、なんとかして時刻が記載された証拠を探し出すことが大切です。
とはいえ、ありとあらゆる努力をしても出退勤の時刻が記載された証拠を入手することができなかったときは、記憶を頼りにできる限り詳細な陳述書(本人の言い分を書き記した文章)を作成し、陳述書に基づいて推定計算をして残業代を請求するほかありませんが、陳述書はいわば本人の作文に過ぎないことから、裁判所は、一般に、その正確性に多大な疑問を抱くことになります。そのため、雇用主がタイムカードのデータを保存期間内に破棄し、破棄の合理的な理由の説明に失敗したケースを除き、陳述書に基づく残業代の請求は非常な困難を覚悟しなければならないといえるでしょう。